プログラミング教育必修化にそびえる壁

 以前、プログラミング教育必修化における国の目的について、「IT人材の不足を補うこと」と「プログラミング的思考を身につけてもらうこと」だと説明しました。しかし、何事も現実に則った方法がなければ実現できず、理想は理想のままで終わってしまいます。

 では、今回のプログラミング教育必修化は現実に則った方法なのでしょうか? 今回はプログラミング教育必修化が乗り越えなくてはいけない現実にそびえる壁、課題をお話します。

プログラミング教育必修化のために乗り越えなくてはいけない課題

 プログラミング教育を必修にするにあたって、国は新しい教科を設けるわけではないとしています。そしてこれが一つの課題を生み出しました。というのも、これは理科や算数、総合的な学習の時間などにプログラミング教育を混ぜ込むことで必修化とするというものです。

 理科ですと、(中学校での範囲になりますが)二酸化炭素の取り出しを例にあげます。事前に上方置換、下方置換、水上置換法を教え、二酸化炭素の性質を説明。そこから実験手順を生徒自身に考えさせるといった形ならばプログラミング教育になるでしょう。二酸化炭素を取り出すという目的に向けて、二酸化炭素の性質を考えつつ、実験手順を組み立てる。論理的思考力が育まれるわけです。

 しかしこういった既存教科に盛り込む形の場合、どこまで論理的思考力を組み込むかは各学校の判断、裁量に大きく左右されます。よって、学習レベルや実施時間などが学校ごとに差がでるかもしれない問題があります。

 そして小学校は中学校と異なり、教員一人がすべての教科を請け負います。これも大きな課題です。今までプログラミング教育の指導方法を習っていないどころか、そもそもプログラミングと縁のない教員も少なくありません。生徒に指導する立場の教員もまたプログラミング初心者であるというのは、適切なプログラミング教育がなされるのかという懸念があります。もちろん、教員に指導方法を教えればよいのです。けれどもそれが困難である環境も問題となっています。

 それがプログラミング教育必修化と同じく実施される「外国語活動」の必修前倒しです。現在外国語活動は5,6年生で必修となっていますが、2020年度から前倒しされ3,4年生でも必修となります。教員一人がすべての教科を請け負う以上、小学校教員はこちらにも時間を割いて指導方法を学ばなくてはいけません。

 そして最後の課題が「小学校でのICT環境の整備」です。プログラミング的思考だけならば前述のように、コンピュータなどを使わなくても大丈夫です。しかし「IT人材の不足」も目的とする以上、ICT環境が整備され、それに慣れ親しまなくてはその目的は達成されないのです。

 では、小学校のICT環境は今どうなのか。文部科学省の「学校におけるICT環境整備の状況について」(2016年3月実績)を見ると、
・教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数……6.2人/台(目標:3.6人/台)
・超高速インターネット接続率(30Mbps以上)…… 84.2%(目標:100%)
・超高速インターネット接続率(100Mbps以上)…… 38 .4%(目標:100%)
・普通教室の校内LAN整備率……87.7%(目標:100%)
・普通教室の無線LAN整備率……26.1%(目標:100%)
・普通教室の電子黒板整備率……21.9%(目標:100%/1学級当たり1台)

 とのデータが示されています。どれも目標には届いていません。懸念すべきは教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数と超高速インターネット接続率(30Mbps以上)でしょうか。コンピュータの台数は言わずもがな、超高速インターネットは15年前ならいざしらず、モノがインターネットに接続されるIoTが進む現在では致命傷となります。100Mbps以上の回線となると光回線が必要となり、その場合小学校の位置する地域の問題に近くなります。たとえば三重県南部や和歌山県南部の地域では光回線のサービス範囲外となっています。その反対に東京都では10Gbpsもの帯域が使用できる光回線のサービスが提供されるなど地域間格差が目立ちます。そのためこれは学校の整備努力では難しいところもあります。

 しかし、30Mbps以上の速度は下り速度の場合ADSLの理論値が最大50Mbpsであることから、まだ実現可能な速度なわけです。沖縄県の北大東島など、ケーブルが島にきていない離島などでは難しいです(北大東島では隣の南大東島まで届いている海底ケーブルまで、無線にてネットワークを構成しています)。けれどもそのような地域は日本国内ではそこまで多くはなく、それゆえに小学校のICT環境の整備不足が目立ちます。

課題を乗り越えプログラミング教育の円滑な実施を

 以上のような課題がある以上、すべての小学校でプログラミング教育が国の考える目標の水準まで達せられることはないでしょう。

 しかし情報社会という荒波を超える日本丸に乗船している私たちへ波は容赦なく襲いかかります。たとえプログラミング教育が適切に施されていようがいまいが、情報社会の波に襲われることから逃れる術は日本丸に、いや現代文明という船に乗っている以上ありません。

 義務教育だから、必修化されたからという意識ではなく、自発的にプログラミング教育に対応する必要があります。

(参考)
プログラミング教育必修化に漂う大きな不安
https://toyokeizai.net/articles/-/229268

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